米国LLCは日本の税務上どう扱われる?外国法人扱い・パススルー否認・合算税制・租税条約の要点
はじめにお読みください: 本記事は日本の公的資料・公表資料を引用して整理した一般的な情報です。日本側の申告・判断は税理士にご相談ください。当所は米国側の申告のみを担当します。
要点まとめ
米国では「オーナーを透かして見る」LLC が、日本では「別人格の外国法人」として扱われます。 この一点から、日本の居住者が米国 LLC を持つときの論点がほぼすべて派生します。損失は出資者の所得と相殺できず、LLC から受け取るお金は「配当」になり得て、米国と日本で課税の時期がずれ、休眠中で米国の税金がゼロの LLC ほど外国子会社合算税制の射程に入りやすく、LLC を経由した米国源泉所得には日米租税条約の恩典が及ばないパターンがあります。米国で税金がかからない=日本でもかからない、ではありません。 一方、米国側の申告(Form 5472 と pro forma 1120)は日本側の扱いに関係なく毎年必要で、こちらは当所が担当します。
1. 国税庁の見解:米国 LLC は「外国法人」
国税庁は質疑応答事例「米国 LLC に係る税務上の取扱い」で、米国 LLC を原則として日本の税務上「外国法人」に該当するものとして取り扱う旨を示しています(国税庁 質疑応答事例)。判断の根拠は、LLC が州の LLC 法に基づき法人格に相当する性質(構成員から独立した権利義務の主体であること等)を与えられているかどうかであり、米国の税務上パススルー(構成員課税)を選択しているかどうかではない、という整理です。
裁判例も同じ方向を向いています。東京高等裁判所平成 19 年 10 月 10 日判決は、ニューヨーク州法に基づいて設立された LLC について、日本の租税法上の「外国法人」に該当し、LLC からの分配金は出資者の「配当所得」に当たると判断したと報じられています(租税資料館 論文「米国 LLC に係る我が国税務上の取扱いに関する考察」)。この論文は「国税庁質疑応答事例及び東京高裁判決は共通して、我が国では法人格を有する事業体は法人として取扱われる」と整理しています。
米国側の事情を思い出してください。外国人が 100% 所有する単一メンバー LLC は、IRS の目には「無視される事業体(disregarded entity)」であり、所得はオーナー個人に帰属します。同じ 1 つの LLC が、太平洋の両側で違うものとして見られている——これがハイブリッド事業体の問題です。一般論としての各国の分類の食い違いは母国はあなたの米国 LLC をどう見るかで扱っていますが、日本の場合は公的な見解が明示されている点が特徴です。
2. 損失は取り込めず、分配は「配当」になり得る
外国法人扱いの帰結は 2 つあります。
損失について。 国税庁の質疑応答事例は、LLC が外国法人として扱われる以上、米国でパススルーを選択していても、LLC に生じた損失を出資者である日本の居住者等の所得計算に取り込むことはできない、という趣旨を示しています(国税庁 質疑応答事例)。米国では立ち上げ期の赤字が 1040-NR 上でオーナーの損失として現れても、日本の確定申告で給与所得や他の事業所得と相殺する材料にはならない、という整理です。
分配について。 上記の東京高裁判決は、LLC からの分配金を配当所得と判断したと報じられています。租税資料館の論文は、「我が国では、米国でパートナーシップ課税を選択している米国 LLC であっても、税務上、法人として取扱われることになれば、実際に米国 LLC から金銭等の分配が行われるまで課税は発生しない。そして、その性質は配当所得等、その所得の内容により所得区分が決定され、実際に分配を受けた金額が課税の対象となる」と説明しています。
ここで実務上重要なのは、「出資の払戻し」と「利益の分配」を区別できる記録があるかです。分配金がそのどちらに当たるかで日本側の扱いは変わり得ますし、後述のとおり同じ記録を米国側の Form 5472 でも使います。日本側の所得区分の判断は税理士にご相談ください。
3. 外国税額控除の「時期のズレ」
米国と日本で課税のタイミングが食い違うため、二重課税の調整が難しいとされています。 仕組みはこうです。
- 米国側: LLC の利益は、発生した年にオーナー(メンバー)の所得として認識され、米国で課税対象となる場合は Form 1040-NR で申告します。LLC が後日そのお金をオーナーに送金しても、米国ではすでに課税済みの利益の払戻しであり、その時点で改めて課税されるわけではありません。
- 日本側: LLC は外国法人なので、利益が LLC 内にとどまっている間は日本の課税は発生しません。課税が発生するのは、実際に分配を受け、それが配当所得等と判断された年です。
租税資料館の論文はこのズレを正面から指摘しています。「米国においてメンバーが損益等を認識した時点で国際的二重課税は発生しないため、外国税額控除の適用を受けることはできない」一方、分配時には「メンバーが既に米国において課税を受けている所得を源泉とした金銭等の分配に対して、我が国において課税を行うことになるため、国際的二重課税が生じることになり」、日米で課税時期が異なる場合にどの時点で外国税額控除を適用するのかという問題が発生する、と述べています(同論文)。論文は、分配を受けた年に控除を適用する可能性が高いとしつつ、「この分配は米国で非課税とされるので二重課税となる金額を把握することは困難ではないか」と述べています。
参考までに、居住者の外国税額控除の枠組み自体は国税庁のタックスアンサーに整理されており、控除限度額は「その年分の所得税額 ×(その年分の調整国外所得金額 / その年分の所得総額)」で、控除しきれない額は 3 年間繰り越せるとされています(国税庁 No.1240 居住者に係る外国税額控除)。ただしこの枠組みが、時期のずれた LLC の分配にどう当てはまるかは、上記のとおり整理が難しいとされている領域です。米国で 1040-NR を出して納税していれば日本側は自動的に調整される、とは考えないでください。 当所は米国側の納税額と年分を証明できる書類をお渡ししますが、日本側での控除の可否・時期は税理士にご相談ください。
4. 外国子会社合算税制:休眠 LLC ほど射程に入りやすい
日本の居住者が 50% 超を保有する米国 LLC は、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の検討対象になります。 財務省の概要によれば、この税制は「外国子会社等の租税負担割合が一定(ペーパー・カンパニー等は 27%、それ以外の外国子会社等は 20%)以上の場合には本税制の適用を免除」する構造で、逆に言えば租税負担割合がそれ未満の外国関係会社が対象です(財務省 外国子会社合算税制の概要)。個人については租税特別措置法第 40 条の 4 が根拠で、発行済株式等の 10% 以上を直接・間接に保有する居住者が、課税対象金額を雑所得の収入金額とみなして申告するとされています(税務研究会 用語解説)。
ここで 「米国で税金がかからない=日本でもかからない、ではありません」 という点を強調しておきます。外国人が所有し、米国で実質関連所得(ECI)を持たない LLC は、米国では事業体レベルの所得税が発生しません。だからこそ多くの方が「米国は 5472 の情報申告だけで済む」と安心します。しかし日本側の物差しは租税負担割合です。事業体レベルで 0% の LLC は、この税制が最も想定している類型そのものです。
適用の有無を分けるのが「経済活動基準」です。JETRO の Q&A によれば、ペーパーカンパニーとは「実体基準」(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等の固定施設を有すること)と「管理支配基準」(本店所在地国において事業の管理・支配・運営を自ら行っていること)のいずれも満たさない外国関係会社で、会社単位で全所得が合算されるとされています(JETRO タックスヘイブン対策税制:日本)。日本に住むオーナーが自宅からすべてを運営し、米国側には登録代理人の住所しかない LLC が、これらの基準をどう満たすかは、率直に言って難しい問いです。判断は個別の事実関係によりますので、税理士にご相談ください。
持分の数え方についても、最近の裁決があります。令和 6 年 11 月 1 日の国税不服審判所裁決では、各メンバーが 1 ユニットずつ持つ LLC で利益分配が大きく偏っていた事案について、出資の数で判定できるのは各出資が「等質(同じ経済的価値を持っている)」場合に限られるとし、「配当等を受ける権利」の割合で 50% 超の判定を行ったと報じられています(プロビタス税理士法人の解説)。名義上の持分を分散させても、利益が実質的に日本の居住者に流れていれば、判定はそちらで行われる、という方向性です。
合算の時期については、居住者の場合、「外国関係会社の各事業年度終了の日の翌日から 2 月を経過する日の属する年分」の雑所得として扱うとされています(同用語解説)。12 月決算の LLC なら、2025 年分の LLC の所得は 2026 年 3 月 1 日を含む「2026 年分」に合算され、2027 年 3 月 15 日期限の確定申告に載る、という読み方になります。なお内国法人については、令和 7 年度税制改正で「2 か月」が「4 か月」に改められたと JETRO が説明していますが、個人にも同様の改正が及んでいるかは当所では確認できていません。この時期の計算は税理士にご確認ください。
5. 日米租税条約:LLC を通した所得には恩典が及ばないパターン
日本の居住者が米国 LLC を通じて米国源泉所得を得る場合、そのストラクチャーに租税条約の恩典が及ばないパターンに当たるとされています。 日本公認会計士協会の租税調査会研究報告第 12 号は、日米租税条約第 4 条 6 項が、事業体を通じて取得する所得への条約適用を「所得の受領者の居住地国で当該事業体が課税上どのように取り扱われるか」で判定する仕組みを設けたと説明し、5 つのパターンを整理しています。そのうち、一方の国で組織された団体を通じて取得され、他方の国(受領者の居住地国)の税務上その団体が「課税主体」として扱われる場合は「租税条約の適用なし」とされています(JICPA 租税調査会研究報告第 12 号)。日本の税務上、米国 LLC が「法人」(課税主体)であることは第 1 節のとおりですから、日本の居住者が米国 LLC を通じて受け取る米国源泉所得は、このパターンに当たり得ます。
同報告は、「米国の LLC が日本の税務上は一般的に法人として取り扱われてきているにもかかわらず、米国税法上はパススルーとして取り扱われている場合が多い」ことを指摘したうえで、「日本の税務上、外国の事業体がどのように取り扱われるか、すなわち団体課税かあるいは構成員課税かに関して明確な法令上の規定はなく、その判断には常に困難が伴う」とも述べています。つまり方向性は示されているものの、法令上の明文がない領域です。
さらに、条約には第 22 条の特典制限条項(LOB)があり、適格者基準・能動的事業活動基準などを満たす必要があります。米国側で条約上の減免を主張するには W-8BEN-E などでこれらを申告する仕組みですので、W-8BEN-E と W-8BEN の違いも併せてご覧ください。
FBA 倉庫と恒久的施設(PE) の問題も未整理です。JETRO の PE 解説は、「企業の物品または商品の保管、展示または引き渡しのためにのみ施設を使用する場合」は PE から除外され得る一方、2017 年の OECD モデル改正で除外は「準備的・補助的な性格の活動」に限られ、細分化防止規定も導入されたと説明し、「最終的には当該国の税務当局の取扱い次第である」としています(JETRO 恒久的施設(PE)とは)。Amazon の FBA 在庫が PE に当たるかどうかは明確ではありません。米国側での実質関連所得の議論はFBA と ETBUSで扱っています。
6. 国外財産調書と国外送金等調書
米国 LLC の持分や LLC 名義の口座は、日本側の情報申告にも関わります。
- 国外財産調書: 「その年の 12 月 31 日においてその価額の合計額が 5,000 万円を超える国外財産を有する居住者」は、翌年 6 月 30 日までに提出が必要です。期限内に提出していれば加算税が 5% 軽減され、提出がない・記載漏れの場合は 5% 加重されます(国税庁 No.7456 国外財産調書の提出義務)。
- 国外送金等調書: 金融機関は、100 万円を超える国外送金等について国外送金等調書を税務署に提出します(国税庁 国外送金等調書)。この調書を基に、後日税務署から「国外送金等に関するお尋ね」が届くことがあるとされています(MAC ミッドランド税理士法人の解説)。
LLC への出資金の送金、LLC からの分配金の受取り、いずれも該当し得ます。ここでも、分配・出資の記録があれば「お尋ね」への回答は事実を写すだけで済みます。
7. マイナンバーは米国様式の「外国納税者番号」になるか
Form W-8BEN / W-8BEN-E には外国納税者番号(FTIN)の記載欄があり、Form 5472 にも外国オーナーの母国の納税者番号を記載する欄があります。日本の居住者については、実務上マイナンバー(個人番号)を記載するのが一般的とされています。IRS Notice 2017-46 により 2018 年 1 月 1 日から FTIN の記載またはその取得ができない理由の説明が求められるようになった経緯も含め、複数の解説が同様の案内をしています(Carlos & Hassan の解説)。
一方で、マイナンバーを外国の事業者や当局に提供することが番号法上どう位置づけられるかについて疑問を持つ方もいます。当所は日本法の解釈について判断しません。マイナンバーの提供の可否は、税理士や行政書士など日本側の専門家にご確認ください。 当所は、お客様が記載すると決めた番号をそのまま様式に反映します。
米国側 vs 日本側:一覧表
| 論点 | 米国側(IRS) | 日本側(国税庁等の公表資料による) |
|---|---|---|
| 課税主体 | 単一メンバー LLC は「無視される事業体」。所得はオーナー個人に帰属 | LLC は「外国法人」。オーナーとは別人格 |
| 損失 | オーナーの 1040-NR 上の損失として現れ得る | 出資者の所得計算に取り込めないとされる |
| 分配 | すでに課税済みの利益の払戻し。分配時に改めての課税なし | 分配を受けた年に配当所得等として課税され得る |
| 二重課税の調整 | 米国側で日本の税を控除する場面は限定的 | 課税時期のズレにより外国税額控除の調整が難しいとされる |
| 情報申告 | Form 5472 + pro forma 1120(毎年、収入ゼロでも) | 国外財産調書(5,000 万円超)、国外送金等調書(100 万円超、金融機関が提出) |
| 申告期限 | 4 月 15 日(Form 7004 で 10 月 15 日まで延長可) | 所得税の確定申告は 3 月 15 日。合算税制は事業年度末の 2 か月後を含む年分とされる |
| 事業体レベルの税負担 0% の意味 | ECI がなければ通常のこと | 租税負担割合 20%/27% 未満として合算税制の検討対象 |
8. 当所が担当する米国側の申告はどう変わるか
変わりません。 Form 5472 と pro forma 1120 は、IRS が LLC を「無視される事業体」と分類することに基づく申告で、日本が LLC を外国法人として扱うかどうかに関係なく、報告対象取引のある年は毎年必要です。休眠 LLC の報告対象取引で説明しているとおり、設立時の出資や年会費の立替えだけでも該当します。LLC が米国外に口座を持つなら FBAR も別途検討します。
日本側の論点を踏まえて当所がお勧めするのは、分配・出資の台帳を 1 つ持つことです。理由は単純で、同じ数字を両国で使うからです。
- 米国側: Form 5472 の Part V には、無視される事業体とオーナーとの間の出資・分配を記載します。
- 日本側: 東京高裁判決の枠組みでは、分配を受けた年に配当所得等として認識され得るため、「いつ・いくら・出資の払戻しか利益の分配か」の記録がそのまま確定申告の材料になります。合算税制の検討でも、LLC の各事業年度の所得と租税負担割合の計算が起点になります。
- 国外送金等調書: 「お尋ね」が来たときに、台帳を写すだけで回答できます。
当所は米国側の申告書と、その根拠となる LLC の年次数字(所得、納税額、出資・分配の明細)を、税理士にそのまま渡せる形で整えます。日本側の申告・判断は税理士にご相談ください。当所は米国側の申告のみを担当します。
公式参照: 国税庁 質疑応答事例「米国 LLC に係る税務上の取扱い」 · 財務省 外国子会社合算税制の概要 · JETRO タックスヘイブン対策税制:日本 · JETRO 恒久的施設(PE)とは · JICPA 租税調査会研究報告第 12 号「新日米租税条約のポイントと実務上の課題」 · 国税庁 No.7456 国外財産調書の提出義務 · 国税庁 No.1240 居住者に係る外国税額控除 · 租税資料館 田中友紀「米国 LLC に係る我が国税務上の取扱いに関する考察」。
次のステップ
米国側の申告は、日本側の議論がどう転んでも変わりません。当所の Form 5472 + pro forma 1120 の申告サービスは定額 $349 で、米国の税務申告専門家が作成・署名します。ECI があり 1040-NR が必要な場合は $449 から、LLC の海外口座の FBAR は $99 です。お渡しする申告書の控えと年次数字は、そのまま税理士にお持ちください。日本側の申告・判断は税理士にご相談ください。当所は米国側の申告のみを担当します。
本記事は一般的な情報であり、日本または米国の税務・法務上の助言ではありません。日本側の記述はいずれも引用元の公表資料の要約であり、個別の事実関係への当てはめは税理士の判断を要します。
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よくある質問
米国 LLC は日本の税務上「法人」ですか、それとも「パススルー」ですか?
米国 LLC の赤字を日本の確定申告で自分の所得と相殺できますか?
米国 LLC から受け取ったお金は日本ではどの所得になりますか?
米国で税金を払っていれば、日本では二重に課税されませんか?
休眠中で米国の税金がゼロの LLC でも、日本の外国子会社合算税制の対象になりますか?
日本の居住者が米国 LLC を通じて米国源泉所得を得た場合、日米租税条約は使えますか?
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